発達障害と言われている「自閉症」。
言葉は聞いたことがあると思いますが、実際にどんな特徴があるのかはなかなか知らないと思います。今回も私の塾の生徒とのエピソードを交えてご紹介したいと思います。




塾講師という職業を始めて早18年。色々な出来事がありました。中でも私自身の行動や発言が原因で塾を辞めてしまうことになった生徒については、深く記憶に刻まれます。

今からご紹介する自閉症の生徒は、その1人です。私の経験の中で、今でも忘れない苦い経験でした。 

① 自閉症とは?


自閉症は「1. 対人関係の障害」「2. コミュニケーションの障害」「3. パターン化した興味や活動」の3つの特徴をもつ障害で、生後まもなくから明らかになります。最近では症状が軽い人たちまで含めて、自閉症スペクトラム障害という呼び方もされています。
※厚生労働省



自閉症といっても色々なタイプの子供がいます。
コミュニケーション能力の発達は遅れているものの、学習には問題ない子供がいれば、学力の遅れが目立つ子供もいます。自閉症だからこれ!
という線引きは非常に難しく、総称して「自閉症スペクトラム」と言われています。

私の生徒であるA(とします)も見た目ではわかりにくいのですが、やはりコミュニケーション能力や学習能力の発達に遅れが見られました。

詳しくは厚生労働省のHPへ→こちらをクリック




② 自閉症の子どもと私の出会い


私が新入社員一年目の頃の話です。

Aは、当初集団指導クラスにいました。私が配属される少し前に入塾していたようです。

私は、大学の4年間ずっと塾講師をしていましたし、教員免許も取得しているということで、即戦力になる人材として扱われていました。その為、配属先が決まるとすぐに授業を任されました。(塾業界は、3月から仕事が始まります。)

私が授業をするクラスは、事前に一度見学させてもらえてはいましたが、細かな生徒情報を教えてもらう事はありませんでした。(私もこれからゆっくり生徒を知っていこうと、それに不審も不満もありませんでした。)

そういう状況で、Aのいる集団授業へ…。

当然、自閉症であることは知りませんので、最初の印象は「この子を集団授業に入れて成績上げることって、至難の技じゃない?」と思っていました。

しかし、私は新入社員です。
すぐにそれを口に出すことはしませんでした。校長の方針があるのだろう…と遠慮して。



③ やはり、違和感


少なくとも4年の経験があったので、今まで見てきた子供とは明らかに違うことはわかりました。

誰とも一切話さない
目を合わさない
何かあれば手を洗いに行く
挙動不審


と、勉強どころではないのです。
流石に、校長にその現状を相談しました。

校長は私を信頼し、すぐに個別指導へ変更する旨の電話を保護者にしました。
これで安心…。

実は、ここで初めて保護者から「うちの子は軽い自閉症である。」ことを告げられたそうです。



③ ついに起こった事件


個別指導へ変更することが決まり、安心した矢先のこと。(厳密に言うと、集団指導の最終日のことです。)

塾に来る道中で事故にあいました!!

Aはいつも自転車で塾にきます。保護者が並走して送迎することも多かったのですが、たまたまその日は1人で自転車できました。

私は授業前に生徒の駐輪場で自転車整備をする役目でしたので、その日もいつも通り整備しながら生徒とコミュニケーションを取っていました。

すると、生徒が「Aが車にぶつかったらしいよ!」といい。別の生徒が「違うよ!ぶつかったんじゃなくて、ぶつかりかけて勝手に転んだよー!」と教えてくれました。

どちらにせよ大変だ!と思い、直ぐに向かいました。


そこは塾から近い場所で、狭い路地になっていますので、車は徐行運転しかできません。たまたま塾生を車で送迎していた別の保護者と、飛び出したAが少し接触したようです。

特に怪我はなく、自転車にも本人にも傷はありません。
転んだ様子もありませんでした。
相手の保護者もいませんでしたので、一体何が起こったのか?本当にぶつかったのか?という状況でした。


Aに「どうしたの?大丈夫?」

と聞いてもうなずくだけで、当然何も言わず、教室に走っていきました。
(何度も言いますが、この時私はAが自閉症であることは知らされていません。)


そうこうしている間に、授業の時間を過ぎてしまっていました。
これは大変だ、生徒達が待っている!と、私は急いで教室に戻り授業を開始しました。

授業後、上司に報告したら、「すぐに保護者に電話するように!」と言われ、私が知る範囲の事を保護者に報告しました。

当然、保護者から「何故すぐに連絡をくれなかったのか?うちの子はそれでなくてもコミュニケーションが苦手という事はわかっていますよね!」と激怒され、その子は退塾しました…。



④ 致命的なミス


私はこの事に関して、問題点は3つあったと思っています。

① 無知
② 顧客の立場に立つ
③ 保護者のミス

一つずつ説明します。



(問題①) 無知は罪なり

私が新入社員で働き出した頃、自閉症という言葉はあまり普及していませんでした。身体障害者に対する実習は、教員免許を取得する際に受けていましたが、自閉症・アスペルガー症候群・ADHDなどについては全く学習する機会がありませんでした。

ただ、幸いにも同級生に自閉症の子供がいたので、Aはその子に近いな…。という気はしていました。 しかし、私は医者ではありませんし、未熟な新参者です。踏み込む事など到底できません。それについて、調べることもしませんでした。

知らされていなかったにしろ、無知は怖いです。まさに、「無知は罪なり」と今では思えます。



(問題②) 顧客の立場に立てなかった

当時の私は若すぎたのか、
「多少転んだくらい大丈夫!怪我はなく元気に走って教室に向かったんだから、心配ない!」
と安易に考えていました。
だって、私が小さいころは多少怪我をしても元気に動けるなら問題ない!!という時代でしたから。

しかし、それは私の価値観であって、みんながそういう考えではありません。
ましてや、我が子のこととなると尚更ですよね…。

今ならわかります。
保護者の立場に立つのではなく、保護者の立場に立ちきる
そういう姿勢でないと、分からない気持ちがあるのだという事を。

Aが何も言わなかった。だから大丈夫。そう思った自分が情けないです。



(問題③) 保護者のミス

明らかに分かると思いますが、入塾当初から自閉症である事を塾に告げていれば、結果は違ったと思います。

自閉症であることを告げると大手塾には入れてもらえないと思ったのか、周りに知れることが恥ずかしくて隠しておきたいと思ったのか。
理由はわかりませんが、こういう繊細なことほど塾には伝えておくべきです。

もし、自閉症である事を知っていたら、きっとAが説明できない事は当然であり、事故があったに違いないと即電話したことでしょう。

しかし、それが出来なかったのは、少なからず保護者の責任でもあると思います。



⑤ その後のこと


それから、保護者は私を交えて塾の保険を使いたいということ。こんな先生辞めさせろということ。など、色々と対応を迫られました。

塾としては、当然塾の行き帰りで起こったことですので保険適用であることを、お伝えしましたし、何度も謝罪しましたが、当時の塾長は、私を辞めさせろという要望だけは飲みませんでした

そこは、私の責任ではないと庇(かば)ってくれたのです。
保護者からの報告がもう少し早ければ…。塾長からの連絡がきちんと行き届いていれば…。という申し訳ない気持ちがあったのだと思います。

上司としては当然の事なのかもしれませんが、新入社員の私のミスをこうして庇ってくれる塾長に感謝しかありませんでした。

Aがその後どうなったのか、知ることはできませんが、私はAのお陰でとても良い経験ができました。

そして、 それ以降、この私の失敗を後輩たちに伝えるようにしています。後輩が同じ過ちで傷付かないように…。